私の母は20年くらい前に脳出血を起こし、左半身にマヒが残りました。
不幸中の幸いで、マヒの程度はそれほど重くなく、
入院中から私が結婚するまでは私が家事をしましたが、
結婚後は左半身が多少不自由ながらも、再び母が家事をしていました。

脳出血を起こしてからは定期的に通院していましたが、
この5年くらいは、ほぼ毎年秋になると、脳血栓で2〜3週間入院するようになりました。
でも血栓はあまり程度は重くなく、点滴で血の流れをよくするといった感じで
退院後は再び以前と同じような生活をすることができました。


今年の秋、「今年は入院することがなければいいな」と思っていた矢先の9月21日に
再び脳出血を起こしてしまい、今回の出血は左脳で起ったため、右半身にマヒが残りました。
22日に病院に行った時には、その前に会った母とは別人のような体になっていました。
左右にマヒが残ったために、食べる・飲むという生きていくための最低限のことですら
自分一人ではできなくなっていました。
本人もかわいそうだけれど、家族にとっても「悲しい」とか「辛い」などと
言葉でいい表すことなどできないほどの辛い出来事でした。


入院中の一ヶ月は、食べることも飲むことも全て「全介助」。
介護保険の認定はまだ正式にはでていませんが、
まず間違いなく「要介護5」(もっとも重いレベル)でしょうと言われました。


1ヶ月が経って出血も完全に収まり、いわゆる「治療」は終わったので
リハビリセンターに行くことを薦められました。
本人も、そこで2〜3ヶ月頑張ってリハビリするというので、そちらに移りました。
同じような人が沢山いると思っていたリハビリセンターでも、母ほど介助が必要な人は見かけません。
左右ともマヒのレベルは軽いのですが、やはり「左右両方」というのは、とても大きなハンデです。
たとえ利き腕側の半身がほとんど動かなくなっても、もう片方が自由に動くならば、
少し慣れれば自分でやれることも多いと思うのですが、
左右両方というのは、諦めなくてはならない事がかなり多くなります。

母は以前から「老いても人の世話にだけはなりたくない」と日頃から言っていたので
トイレに行くのも、リハビリの部屋に移動したりするのも、全て介助が必要という状態は
本人の心の大きな負担になっていると思います。
体が不自由になっただけで、痴呆などは全く無いという状態は、一番辛いかもしれません。

それでもリハビリセンターに行ってから、食事や排泄も「全介助」から「一部介助」くらいになってきました。



20年前の脳出血の時は私もまだ若かったし、親がそういう状態になることの
心の準備もまるでなかったので、毎日夜になると泣いてばかりいました。
今回のことは私にとっても、とても大きな悲しみでしたが
今はどんな状況になっても笑って暮らしていけるようになりました。
どんな状況になっても、日々の生活の中で少しでも暮らしを楽しむことができるようになりました。
辛い時でも考え方を変えることで、少しは心を軽することができることを知りました。


母にも失った体の機能に執着しすぎず、残った機能を上手く生かして暮らしていって欲しいと思ってます。
失ったものに執着していると、いつまでも悲しいだけ、辛いだけ。



いつもはあまり後ろを振り返らないようにしていますが、今回はひとつ残念なことがあります。
10月1日は母のお誕生日で、この秋に70歳になりました。
もうずいぶん長いこと故郷(長野県小諸市)に帰っていなかった母を、
自分の足で歩けるうちにもう一度故郷の地を踏ませてあげたい、
70歳のお誕生日を故郷で迎えさせてあげようと
今年の9月下旬から10月の始めにかけて、父と母を軽井沢に連れていってあげることになっていました。
脳出血を起こしたのは、出発の日のわずか1週間前でした。


「お母さん、小諸はもうだいぶ寒くなってきたでしょうね。
今回は行かれなくなってしまって残念だったけれど、来年新緑の頃にでも行けたらいいね。
小諸に行ったら、子供の頃によく連れて行ってもらった懐古園に行こうね。
3年くらい前に軽井沢に行った時、久しぶりに懐古園にも寄ったけど
子供の頃に行った時より、なんだか狭く感じました。
園内のちょっと高くなっている場所の、木の隙間から見下ろす千曲川の景色がすごくキレイで
子供ながらにその場所がすごく好きだったけど、川の近くに建物が建ってしまったりで
景色が変わってしまって、ちょっと残念でした。
いつも草笛を吹いていたおじさんが、ずいぶん前に亡くなったことはニュースで見て知っていたけれど
おじさんがいつも居た場所にボックスがあって、そこのボタンを押すと
草笛の音が聞こえてくるようになってました。
何も変わってないだろうと思っていたけれど、いろんなことが少しずつ変わっていくんだね。」



                                               2003/11/15 up



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